大陸打通 ―となりのせきのだつおくん―


今週の週刊朝日の表紙は、松ケンであった。
彼が津軽弁を駆使する『ウルトラミラクルラブストーリー』の宣伝を兼ねてのことらしい。
むつ市出身の彼が下北弁を喋るのは有名で、徹子の部屋でも披露していたそうだが、今回の映画では津軽弁である。難しかったろう。

青森が舞台の映画
ウルトラミラクルラブストーリー」でも、
津軽弁のセリフが温かい雰囲気を生んでいる。
だが津軽弁のイントネーションは、
松山さんの地元のそれとは違い、随分難しかったとか。

朝日らしく、南部津軽の事を仄めかしつつ、「地元のそれとは違い」と甘く纏めている。
が、ある程度年を重ねた方々の意識は、このように甘くはない。
店で自分を気に入ってくれた野辺地のお婆ちゃんは、礼儀正しく優しい人だったが、津軽弁と聞けば「とても汚いですよ。」と連呼していた。一般に下北は南部とも意識的な差異があると云われるが、殊、対津軽となった場合、南部領であったことを強く意識させる。また、長年教師だったお婆ちゃんは、気が乗ると新任だった頃の戦争体験を語ってくれた。概ね、戦時中でものんびりしたものだったが、「こんな田舎まで爆撃に来るとは、結構(戦局は)危ないのでないかな」と薄々思っていたようだ。ただ、爆撃よりも朝鮮人が強盗に来たり、蜂起するという噂の方が深刻であったようで、生徒の安全をどうしようか考えたものらしい。「チョーセンジンが……」と、真剣に喋っていたが、朝鮮人は大して居らず、直接会ったことも無いようだった。
南部の人たちは、朝鮮人の話しを結構するなぁ…と思う時がある。
岩手随一の高校を出た友人も、祖父が「朝鮮人は狡い」と嫌っていたせいか、朝鮮人を毛嫌いしていた。彼の祖父は弘前の師団の叩き上げ。砲の破片を浴びたりしながらも伝来の刀を提げ吶喊するなど、各地を転戦、軍曹まで昇進している頑強な兵である。友人も、南部盛岡藩家老の血を引いているのが肯けるような、強靭なツワモノだ。綱引きでは最後尾、棒倒しでも相当活躍*1したらしい。初めて同期として会った時の印象は、「嗚呼、“だつお"って現実にいるんだなぁ…」というものだった。校歌の軍艦マーチは勿論、加藤隼戦闘隊なども祖父から教わったのか唄えたし、母校の出身者はさらっと言えた。板垣征四郎・米内光政が筆頭である。陸軍繋がりで板垣の方を良く知っていた。及川古志郎は南部藩士でないことから印象がやや薄く、郷土出身者の括りでは、多田駿は勿論のこと、東條英教・英機父子もあまり語られることが無いようだ。東條は一応南部藩士のはずだが…。ただし、薩長に対する思いは英教のそれと変わりが無い。
彼らとは一線を画して、宮澤賢治は愛されている。
何れにせよ、郷土の偉人を言えるのは岩手の特色に思える。仙台二高のバンカラ君で、井上成美を言えた子は見たことが無い。リベラルな先輩はリベラルな高校で名を残すことを潔しとしない、ということだろうか。

*1:棒の護持・速攻における殴りあい蹴りあいが活躍の場